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ジム・オルーク×青山陽一


【バート・バカラックについて】

青山陽一(以下、A):バート・バカラックさんの音楽との出会いは?
ジム・オルーク(以下、J):多分、生まれる前でしょう(笑)。母親の病院のBGM で初めて聴いた...本当に(笑)。でも、最初の記憶は「Raindrops Keep Falling On My Head(雨に歌えば)」…「Butch Cassidy And Sundance Kid(明日に向って撃て!)」を観てから。

A:バカラックさんって、アメリカではどういう風に見られてるのかな?
J:すごく有名。子供の頃、どこでも彼の音楽が聴けた。エレベーターのBGMとか...今は違うけど。バカラックさんはもちろん有名だけど、それ以上に彼の曲、もっと有名。

A:バカラックさんはプロデューサーであり、コンポーザーであり、アルバムを出して歌ったりもしてますけど、そのどれに特に魅力を感じますか?...やっぱりコンポーザー?
J:コンポーザーとして、ハル・デヴィッドさんとの組み合わせが面白いと思う。砂糖と塩を混ぜてる感じ...それが好き。アレンジャーとしても大好き。いろんなものを有機的に組み合わせる、そういう感覚。彼の曲を分析すると、例えば、少し現代音楽っぽいところがあっても、完全に現代音楽の感じじゃない。でも、ちゃんと聴かなければ、曲の本当の中身が分からない…そういうバランスが 面白いと思う。
A:その上、誰にでも歌えるポピュラー・ミュージック。日本だとそういう人はいないなぁ(笑)。
J:日本だけじゃない。世界的にもいないでしょう。

【「All Kinds of People~love Burt Bacharach」のコンセプトについて】

A:今回は「Produced by Jim O’Rourke」ということで、ソロ・アルバムという位置づけではないのですか?
J:ないです。私のレコードじゃなくて、みなさんのレコードです。

A:このアルバムを作ろうと思ったきっかけは?
J:バカラックさんの長年の歌手、ダナ・テイラーさんがスタッフの友達で、バカラックさんのライヴのバックステージでダナさんに会いました。その時、バカラックさんにも初めて会いました。まず、ダナさんと私で何か一緒にやろうということになって、それから日本の歌手にも参加してもらって…というふうにどんどん考えた。その後、友達のグレン(コッチェ)さんが来日することが出来たからやろうと思いました。

A:選曲はどのように決められたんですか?
J:最初は誰も知らない曲の方が面白いと思ったけど、やっぱり有名な曲も選ばないといけないので、まず20~25曲を決めた。その後、これ出来ない、あれ出来ない...という感じで絞られて行きました。
A:収録されなかった候補曲にはどのようなものがありましたか?
J:「No One Remembers My Name」は本当にやりたかった。でも、ベーシック・トラックの録音にいっぱい練習が必要なので時間がなかった。インストゥルメンタル。あと、「Living Together」のレコードからは半分位やりたかった(笑)。

A:ヴォーカリストを選ぶ基準は?
J:歌詞の意味と曲が持つ世界は違う。例えば、「Do You Know The Way To San Jose(サン・ホセへの道)」は曲は楽しい感じ。でも、実は歌詞は楽しいばかりじゃない。全部の曲でそれが分かってから、どの歌手が良いか考えた。例えば、「Do You Know…」をもしカヒミさんが歌ったら、どこか悲観的な感じが表せる…そういう意味だけじゃないけど、少しそういう可能性を探りたかった。
A:でも、ベーシック・トラックを録音した時は、まだどの曲を誰が歌うかは決めてなかったんですよね?
J:はい。ドリーム・リストはあったけど、最初は誰が出来るのか分かりませんでした。

【収録曲、参加アーティストについて】

A:「Anonymous Phone Call」は全然知らなかったです。
J:昔、ブリルビルディングの時の曲。
A:「After the Fox」はピーター・セラーズの映画(「紳士泥棒/大ゴールデン作戦」)? ホリーズがバックだったんですよね。
J:はい。60年代の少しコメディタッチの映画。多分、バカラックさんの2回目か3回目の映画音楽。最初は「What’s New Pussycat?(何かいいことないか子猫チャン)」でしょう…恐らく。
A:「I Say A Little Prayer(小さな願い)」は結構、アメリカでは歌われてますよね?
J:すごくいっぱいヴァージョンがある。アメリカではディオンヌ・ワーウィックよりアレサ・フランクリンのヴァージョンが有名。この曲、難しい。歌詞のリズムが少し変です。

A:続いて、参加アーティストについてですが、まず細野(晴臣)さんにはびっくりしたって言うか...声がすごく良い。細野さんは歌だけですか?
J:昔はい。
A:なかなかないですよね、他のレコードでは。
J:本当? 細野さん、最近あまりベース弾かない。本当に残念です(笑)。日本で一番のベースだと思う。ベースは細野さんとポール・マッカートニーがベスト。
A:細野さんが好きな外国の方、多いですよね。
J:外国のファンは少しアングラっぽい。多分、海外で一番有名なのは「HOSONO HOUSE」か「COCHIN MOON(コチンの月)」。どこかレジェンダリーな感じ。

A:坂田明さんは?
J:最高だね~。坂田さん、すごい。彼は本当に5分で録音した。ファースト・テイク。即興のお喋りも完璧だった。
A:どこで録ったんですか?
J:私の家で。その後、飲みに行きました(爆笑)。中原さんも面白かった(笑)。おまわりさん役は彼が良いと思った。ライヴではこの曲、10~15分になるかも知れない。

A:小坂忠さんは元々好きだったんですか?
J:はい。「ほうろう」大好き。小坂さんが参加してくれてすごく嬉しかったけど、少し残念だったのは、小坂さんはこの曲しか選べなかった。別の曲の方が良かったかどうかは知らないけど、可能性がなかった。

A:小池光子さんは?
J:友達の知り合いです。スケジュールが変わって参加出来なくなった歌手がいて、歌手を探してた時に友達と飲んでたら、彼女に偶然会った。友達が彼女は良い歌手と言うのでチェックしてみたら、良いじゃない…彼女はすごいよ、素晴らしい。
A:僕も一緒にやったことがあるけど、素晴らしい声ですよね。
J:彼女の英語は完璧です。もし、別の国の人が聴くと、日本人と思わないでしょう。発音はもちろん良いけど、リズムも完璧です。なのに、彼女、英語が喋れない...本当にびっくりした。

A:カヒミカリィさんは昔から知ってるんですよね?
J:うん。カヒミさんに歌ってもらった時、多分、子供が生まれる2週間前…マイキング難しかった(爆笑)。彼女、とても良い人。

A:ヨシミさんはボアダムズのドラマーですよね?
J:はい。ヨシミさんはすごく良い。彼女は自分のバンド、OOIOOで歌います。ボアダムズでも少し歌ったけど、もっと叫びっぽかったでしょう。

A:サーストン・ムーアさんがポップな曲を歌ってるのが、ちょっと面白かった。
J:でも、彼は本当にそういう音楽好き。彼らの曲はノイズで飾るけど、実は中身は本当にポップ。彼、この曲大好き。
A:そういえば、8年位前に高円寺でジムさんとサーストンさんのライヴを観ました。
J:あぁ...Discaholic Anonymousというバンド(笑)。実は、サーストンとサック スのマッツ(グスタフソン)は日本でレコード買うことに狂ってた。Discaholic Anonymousは、英語でアルコール依存症の人が行くAlcoholic Anonymousという場所があります…その冗談英語(笑)。よく覚えてるのが、坂田(明)さんが来た。
A:坂田さんが観に来たの?
J:はい。スタッフに会いたいって話して来てもらって、あの夜、初めて会った。あの頃はソニック・ユースで毎年来日した。坂田さんにはソニック・ユースのライヴを観に来てもらったけど、私、東京でライヴやって、次の街に行って...その後、坂田さんが病気になって、二年半位会えなかった。
A:最近は一緒にやったりしてるんですか?
J:はい。その後、一緒に演奏するようになった。演奏か、飲むか食べるか。坂田さん、最高です。

A:「Trains And Boats And Planes(汽車と船と飛行機)」だけジムさんが自分で歌ってるのは、自分自身をプロデュースする立場でやってるのかなぁ...とか、色々興味があるんですけど…。
J:最初、そういう考えはなかった。あの曲はピアノとベースとドラムスのベーシックだけ。オーバーダブがない。録音したら、もういいと思った。
A:最初に録ったそのままの形で残ってる。
J:はい。でも、最初は誰が歌うのか知らなかった。
A:本当はもっと歌おうと思ってたとか、そういうことはないですか?
J:ないです...歌いたくなかったけど仕方がない。でも、10年間位ほとんど歌わなかったので、自分の声が変わってて本当にびっくりした。

A:僕が参加した曲(「You’ll Never Get To Heaven」)のベーシック・トラックを最初に聴いた時、キーが高いのか低いのか...どうしようかと思って…。
J:すみません。色々なキーを録音すると、半分位の曲数しか出来なかったでしょう。でも、すごいファルセットで良かった。
A:スタイリスティックスで行こうと思ってね(笑)。
J:(爆笑)...天使みたい。青山さんが歌を録音したのを聴いたら、少し即興のメ ロディを歌ってたので、それをストリングスでコピーして...。
A:メロディをストリングスがなぞったりしてましたね。ジムさん、ギターも弾いてます?
J:はい。最後、ストリングを支えるリズム・ギター…少しだけ。ストリングスが重なったら必要でした。すみません。
A:(笑)いえいえ。そういうやり取りが出来て嬉しかった。

【参加ミュージシャンについて】

A:ピアノの黒田京子さんや藤井郷子さん、クリヤ・マコトさんは前からご一緒されたことがあるんですか?
J:クリヤさんとは初めて。藤井さんとは、多分1~2回一緒に演奏したことがあ る。黒田さんは坂田さんのおかげ。彼女は半分の曲で弾いてます。
A:方向性として、この曲にはこの人が合うだろうと?
J:例えば、「I Say A Little Prayer」は最後に賑やかなパーティーの感じが欲しかったので、藤井さんの演奏が良いと思った。そういう考え方です。もっとストロング・ポップの感じが必要だと思ったら、クリヤさんの方が良いと思った。

A:トランペットが入ってますね。
J:「Do You Know…」で佐々木(史郎)さんが。良い演奏です。最初のベーシッ ク・トラックを録音した時から、この方向性が良いと思ったけど、成功するか失敗するか心配だったけど、大丈夫だった。あまりない感じ…少し霞みたい。この曲は私がチェロを弾きました。
A:昔から弾いてたんですか?
J:オーケストラで10年位ダブル・ベース弾いた…チェロはないです。

A:ベースの須藤俊明さんはドラムも叩くんですか?
J:はい。でも、この10年間、ドラムよりもっとベース弾きます。彼は最初のMELT-BANANAのドラマー。私、16年位前にシカゴで2回だけ彼らのミックスをしました。
A:アップライト・ベースも弾いてますよね?
J:いえ。エレクトリックだけ
A:アップライトっぽい音だなぁ、と思ったんだけど...。
J:私、ベーシストに厳しい。全部のトーン、ゼロ。ベースはベース(爆笑)。

A:グレンさんのドラムは素晴らしいですね。
J:彼、最高。あれはオーバー・ダブじゃない(笑)。ドラム、シェイカー、ハイハット、それとタンバリンが必要だと、入るタイミングを考えて周りに順番に置いて、同時にプレイする。本当にすごい。あと、グレンさんとは長年一緒にやっていて、私のことがよく分かるので、ほとんど説明要らない。作業のスピードが必要だったので、グレンさんで良かったと思いました。このレコードのシークレット・ウェポンと思います。

【レコーディングについて】

A:ベーシックな編成はドラム、ベース、ピアノっていうピアノ・トリオですよ ね。最初からその方向で進めようと思っていたんですか?
J:はい。

A:ベーシック・トラックのレコーディングは、前もって何回かリハーサルを重ねてから録ったんですか? それとも、スタジオで譜面を渡して、それからレコーディングしたとか…?
J:まずはみなさんに譜面を渡して、演奏を聴かせてもらって、その後、少し説明して…譜面があっても、こういう風に、こういう風に…もう一回聴かせて下さい。そうやって録音します(笑)。本当に早く…多分、2テイク位。

A:ジムさんが事前に自分で作っておいたデモ・テープを聴いたりはしなかった?
J:はい。デモ・テープはなかった。

A:ベーシック・トラックの録音は全部で3日間ですよね?
J::4日間。でも、最初の半日はセッティングでした。

A:ジムさんはベーシックと一緒にギターを弾いたり、仮歌を歌ったりはしない?
J::殆どない。OKテイクにラララララ~♪と重ねて...はい、次の曲(笑)。

A:歌を歌ってもらった後に、さらにベーシック・トラックにダビングをしたそうですが…。
J:みなさんが歌う前に、ストリングス等のアレンジメントも書いたけど、声の感じに合うかどうか分からなかったので、みなさんの歌を録音してもらうまで待ちました。それぞれアプローチが違うので…。歌を聴いた後に、それに合わせて少し調整して録音しました。

A:歌が入って、最終的に一番変わったのはどの曲ですか(笑)?
J:多分、「Raindrops…」。小池さんに歌ってもらったら、本当に私のアレンジメント要らないと思って7割は捨てました。フルートとスティール・パンだけ大丈夫だった。

A:録音用のソフトウェアは何を使ってるんですか?
J:プロトゥールズ。デジタルは好きじゃないけど仕方がない。

A:テープで録音する方が好き?
J:でも、多分5年前位、ベス・オートンかウィルコのレコードで最後にテープを 使った。その後、あまり使わない。
A:でも、すごくナチュラルなサウンドに仕上がってますね。
J:本当? プロトゥールズは録音機材としてだけ使います。プラグインとかは全然使わない。そういう機材フェティシズムには少し反対です。マイクを置く位置とかが一番大事。

A:音楽的な考え方ですね。
J:うん。高価なマイクも要らない。高いから良いとは限らない
A:僕、¥4,000のマイクで録っちゃったんだけど...歌(笑)。
J:大丈夫。例えば、私とグレンさんのバンド、ルース・ファーのレコードは全 部(シュアー)SM57だけ使いました。
A:工夫次第でどうにでもなるっていうことですよね。
J:¥4,000のマイク使ったのは良かったですよ。このレコードのスタンスです(笑)。

【ライヴについて】

A:ライヴはどんな感じになるんでしょうか?
J:ストリングスとかがないので、レコードと同じアレンジメントは出来ない。もっと、バー・バンドみたいなライヴになるでしょう。あんまり厳しい感じじゃなくて、もう少しフリーでリラックスした感じ。
A:コンダクターみたいな感じじゃなくて、ジムさん自身も楽しむみたいな?
J:はい。みなさんも自分の出番じゃなくてもステージで踊ったり、コーヒー飲んだり、何でも大丈夫。全部の歌手がいないので、例えば、サーストンさんの曲、誰が歌うかとか、グレンさんがドラムスやるけど、ベースは須藤さんと私の友達のダーリン(グレイ)さんも弾いて、それで須藤さんが別の楽器もやって...と色々考えています。レコードの11曲以外に、多分もう4,5曲演奏するでしょう。

【その他】

A:他の作曲家のカヴァー集とか、そういうことに興味はないですか?
J:いや、今は考えていません。

A:自分の作品は何か作ってたりするんですか?
J:はい。まだ録音始まらないけど、今書いてます。でも、例えば、即興の音楽はいつもやってる。ノイズとか、そういう音楽は演奏したら録音する。良い考えでも、もう一回同じことは出来ない。それでいつも録音します。ほとんどは捨てるけど…。

A:ご自身のライヴは最近やってるんですか?
J:最近ないです。時々カジュアルのライヴ…即興とか。でも、自分のライヴは過去、3、4年間で1回だけ。今年、多分やるけど、まだ決めていない。
A:アコースティックで弾き語りとかはどうですか(笑)?
J:去年、1回そういうライヴやったけど、まだ駄目だと思う。あんまり、そういう曲だけのライヴはやらない。多分、日本だけ。ヨーロッパでやったことない。アメリカでは2、3回だけやった。
A:ちょっと聴きたいけど(笑)。
J:私の演奏、まだ足りない…歌いながら弾けない。

A:日本でプロデュースしてみたいアーティストとか、ミュージシャンはいますか?
J:プロデュースの興味はあまりないです。スタジオのムード変わったので、現代のスタジオは少し分からない。自分のやり方があまり出来ない。昔のスタジオで少し甘やかされたのでしょう。今あまり良い音の部屋、そういう場所がない。
A:自分の家でやった方が...。
J:駄目。考えが浮かんだらいつでも録音は出来るけど、音がひどい。防音がない。まだリフォームします(笑)。


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